マスク美人への引渡し

 (昨日の続き)
 とある夜、イエ電が鳴った。受話器を取ると、
 「あのう、××病院の○○ですけれど、△△さんですか」
 一瞬なんだかわからなかった。まだ手術は来週だし、なんかの結果がわかるということもないはずだし・・・・、
 そもそも病院の先生から直接電話をもらうなんて、半世紀以上生きてきて初めての体験ではないか。
 「はい、△△ですけれども・・・・」
 「あ、夜分にすみません。実はお願いがありまして。手術の時間なんですが、午後1時の回がキャンセルになりまして、できれば4時の予定をずらしていただきたいのですが、いかがでしょうか」
 これは願ったり叶ったりである。4時の回は前が押してくる可能性があるから、少し遅れるかもしれないということだったけれど、1時からならそんなこともないはずだ。
 で、「ええっ、大丈夫ですよ。1時の方がこちらも好都合ですから、よろしくお願いします」ということになった。
 でもなんで先生が直々に電話を掛けてくるんだろう。フツーは看護師さんが掛けてくるように思うのだけれど、その辺の謎は後日、解けかかる。
 
 そして、いよいよ手術の日である。
 まずは診察室で手術着に着替える。薄いガウンのようなもので、スバンはない。
 「ここはズボンがないんですね」
 と看護師さんに聞くと、
 「そういった声もあるんですけど、ここはまだなんですよ。ごめんなさいね」
 まあ手術するのにファッションも何もないのだけれど、下がややスースーするのは、あまり心地のいいものではない。
 それじゃ行きますか。と看護師さんに連れられて徒歩で手術室へと向うことになる。診察室の横の処置室みたいなところで、ピッピッと取ってしまうのかと思っていたが、どうもそうはいかないみたいだ。
 診察室から出ようとするとき、主治医の先生と助手の先生(ということはあとでわかる)とすれ違う。助手は女医さんでなかなかキレイだ。
 エレベーターに乗り、別の階へ行くのかと思ったら、看護師さんは向かい側のドアを開けた。この病院のエレベーターは両面開きで、手術室には、エレベーターでしか上がれないのようになっているみたい。その仕組みはよくはわからないけど。
 そしてそこで手術室の看護師さんに私の身柄が引き渡される、ってなんかの犯人みたいだなぁ。
 こちらの看護師さんはかなり若くて、それにマスク美人である。彼女は書類に目を通すと、こちらです、と第5手術室に案内してくれる。第4手術室はないので、つまりはここが第4なんだけど、まあいいや。
 実をいうとこの手術室の看護師さんは、普通の看護師さんとはまったく違うコスチューム(当然だけど)だったので、最初は先生なのかと勘違いしてしまった。そうか、ここでは主治医の先生が執刀するとは限らないのだな、と思っているうちに彼女は、
「はい、ここに寝てくださいね。患部はどこですか」
といいながらも、てきぱきと私の胸に線の付いたピップエレキバン、じゃなくてセンサーを取り付けたり、足元に枕(のようなもの)を入れたりしている。そして、そうこうしているうちに主治医の先生と助手の先生が登場。
 でもこの現場、エライのは先生ではなくて、若い看護師さんだったのだ。
 ああ、手術はなかなか始まらない。
(この項目続きます)