そっちは整形ですから。

(昨日の続きです)
マスク美人の看護師さんが手術室の壁に掛かった電話器を取る。
「オペが終わりましたので、お迎えをお願いします」
どうやら診察室から看護師を呼んだようだ。これでもいちおう手術をしたわけなので、突然ぶっ倒れたりしたら大変ということなのだろう。私としてもこの迷路のような病院で、皮膚科にたどり着けるか自信はない。
 そんなことで時間ができた。私は昔風にいうならテレビドラマの「謎の円盤UFO」の地下基地のような、現在なら「ER」でよく見るマンマの手術室を、グルリと見回すことになる。ここにはすごい最新機器がズラリと並んでいるわけだけど、私が使ったのは手術台と照明、それにモニターぐらいのもの。でもまあそれでよかったんだけどね。
 そうこうしているうちに時間がたつ。迎えは来ない。ぜんぜん来ない。
 だから見回しの二順目に取り掛かろうとしていると、看護師さんがいう。
「ご興味があるんですね」
 いやいや、アナタのマスクの上をじっと見ているわけにはいかないでしょ。
そんな気持ちを察したかのように彼女がいう。
「とにかく外に出ましょうか」
ということで、今度はフロアの出入り口で迎えの看護師さんを待つことになる。すると、目の前の第3手術室のドアが開いたりしまったしてて、看護師さんがにこやかに出入りしている。さらに中から看護師さんたちの笑い声が聞こえてくる。ええっ、そこって談話室かなにかなの、と思って目の前で私を見張っている看護師さんに聞く。
 「あの部屋で何をしているんですか」
「 えっ、あの、そりゃ手術ですよ・・・・」
 いやはや随分と明るい手術のようだ。
 この時、手術室のドアの角に、細長い黒いゴムのようなものが張り付いているのに気付いた。入るときはそこを押すのだけれど、スイッチにしては上下に長い。ちょっと考えてその意味がわかった。ストレッチャーで患者が運ばれてきたときに、それで突けば、ドアが開くというわけだ。なるほどね。
 それにしても、まだ来ない。迎えがまだ来ない。
 待っている時間の方が手術の時間の方が長いくらいだな、と思ったころに看護師さんがやってきた。それも次の患者さんを連れて。
 その患者さん、私と同じように手術着を羽織ってといるのだが、なぜか新聞の切り抜きを持っている。すると診察科の看護師さんから手術室の看護師さんへの引継ぎが聞こえてきた。
 どうやらその患者さんは自分の患部が悪性だかどうか自分で判断したいらしく、そういった記事や写真が掲載された新聞を手術室まで持って来たというわけだ。たぶんそのうんぬんで時間が掛かったんだね。
 でも結局は手術室の看護師さんの説得で、それを手術室まで持っていくことはできなかった。当たり前だけど。
 それにしてもその新聞のモノクロ写真と自分の患部とを比べようとしたのだろうか、それともそれを先生に示して、どうですか、なんて聞こうとしたのだろうか、まあどちらにしても不思議である。
 そして一週間後、めでたく抜糸の日を迎えた。診察室の看護師さんの指示で、診察台にうつぶせに寝かされる。すぐに先生がやってきたのだが、後からのアプローチだったので、彼の顔は見えない。
 「はーい、どうも、こんにちは。さーて、どうなっているかなぁ」
といって先生はおもむろに私の右腕に貼られた湿布を剥がそうとするではないか。いやいや、先生の縫ったのは、左腕ですから。まあ、ちょっと紛らわしかったのは認めるけれどね。
 彼は私の糸を抜きながら、
 「手術のときは看護師さんに叱られちゃったよね」
 なんていう。いい先生だ。