京都へっぽこ珍道中 その二

京都観光をするのは、高校の修学旅行以来、つまり数十年ぶりということになる。
 もともと寺や神社に興味はなかった。もちろんそういった名所について、一通りの知識があれば、それはそれで楽しいとは思う。だからあえていえば、幕末にいろいろとあった二条城なんかは観てみたい。でもわざわざ人ごみをぬって、そこへ行きたいかというと、そうでもない。
 しかしツレはそんな思惑の御仁が横にいるにも関わらず、いたく楽しそうである。彼女にとって京都とは、神社仏閣のそれであると同時に、おいしいものを食べるための京都なのである。きっと京都が「おいしく」なければ、観光収入は激減するだろう。
 ということで、一行の二人は京都へと到着。京都のことをまったく知らない私は、すべてを彼女に任せるつもりでいたが、どうやらかなりアバウトな計画しか立ててはいなかったようだ。
「まず京都に着いたら、宿に荷物を預けてあたりを散策するのよ」
「どうやって、その宿に行くんだい」
「バスで、ブブブーとか」
「どのバスだい」
「だから、そっちの方に行くバスよ」
 そして私たちはコロコロをゴロゴロいわせながら、バスの案内所へと向った。
 すると京都美人が京都弁で丁寧に教えてくれたので、500円の一日乗車券を買った。ただしっかり聞いたはずなのに、私は京都弁にメロメロになってしまって、もう今日はここに一泊してもいいような気分になっていた。だからそこのドアを出るといっぺんに忘れてしまったのだ。もちろんいっしょに聞いていたはずのツレに期待するのは、大冒険を覚悟するのと同じである。
 で、駅前のバス・ターミナルから、とにかく祇園に方に行くバスに乗ることにしたら、すぐさまそう書いてあるバスの到着。ちょっと混んでいたけれど、コロコロをぐいっと引き上げて無事に乗車することができた。
 ここで案内所でもらった「バスなび」が役に立つ。私は最初の停留所、烏丸七条を確認する。そこは四つの路線が通っている。しかしそこから次の川原町に行くのは、一本だけである。
 「よし、わかった。この茶色い路線だ」
 私は地図上のバス路線をツレに教えた。でも何か飲み込みが悪い。やはり地図の読めないナンタラってことかい。
 どうやら宿の近くの停留所は東山安井のようなのだが、そこを通っている四路線のうち、一本だけがそこを通過してしまう。それをツレは心配しているようなのだ。
「ほら、この茶色い路線で来ているのだから、大丈夫」
 といっても不安げ。
 しかもバスはその手前の清水道でたくさんの客を乗せてしまった。京都駅では一番後ろの席が空いていたので、思わずそこに座ってしまったのだけれど、降り口のある一番前まで行くには苦労する。
 そしてバスは東山安井に到着した。しかし客がほとんど降りない。私たちは慌ててコロコロを引きづりながら、車内を前へと進む。
「すみません、降ります」
 そんな私たちにひとりのおじさんが罵声を浴びせる。
「降りるんだったら、準備しておけよ」
(ホントはもっとキツイ言葉だったと思う)
 だから、こっちもとっさに罵声でお応えする。
「初めて乗ったんだから、そんなことわかるはずないだろ」
(ホントはもっと丁寧な言葉だったと思う)
 かくして、私の京都での(案内所以外での)最初の言葉はこんなモノとなってしまったのでした。
 しかしかのおじさんの罵声が京都弁じゃなくてホントによかった。
 はい、まだ私たちは昼食にありついていないのです。★これも詩仙堂の紅葉です。