京都へっぽこ珍道中 その十二

 「露庵 菊乃井」の冷酒は竹の形を模した銅製(だと思う)の入れ物で出てくる。趣があるのだけれど、その重量感と中身が見えないことからあとどのくらいあるのかがわからない。まだまだ残っていると思って、ついついピッチが早くなってしまう。これだから、・・・・は困ったものだ。
 料理は若い板さんが、材料の一つひとつに至るまで説明してくれる。それはこういった店では当たり前のことだけれど、こちらの質問にもしっかりと応えられるあたりが、なかなかのものだ。
 隣の神足さん似の方の質問は、さらに難度が高い。それで材料の実物、例えば説明しにくい野菜などを持ってきたりする。それを見て、私たちの方も納得する。
 そして私たちは満足の胃袋と気持ちを抱えて、ご馳走様でした、という。すると、店の主人が外まで見送りに出てくれた。ありがたい。
 しかし私たちは帰り道とは反対の方、つまり南の方に歩き出してしまった。それはもしかすると、明るい道へはしぱらく出たくなかったからなのかもしれない。しかしそうもいってはいられないので、四条通りに戻って、四条大橋を渡った。
 店の評判はいろいろとあるが、今日の私たちは満足だった。Mのガイドブックもこの店についてはちゃんと書いてあると、ワタクシOのガイドブックに記載しておこう。ただし、Mには店名が「菊乃井 露庵」と逆に表記されている。
 この店は月単位で献立が変わるようだ。それなら毎月というわけにはいかないが、季節ごとには訪れてみたいと思った。まあ、京都なので無理なんだけど、そう思わせる魅力はあったのだ。この点は「すきやばし次郎」とはちょっと違う。あの店も一度は行く価値はあると思うけれど、何度も行く店ではない。もちろん自分の財布が膨らんでいれば、話は違うのかもしれないけれどね。
 そして私たちは花見小路を散策する。黒塀で囲まれた要塞のような店が立ち並び、ハイヤーが何台も近くで待機している。これもまた京都の顔かと思い、ちらりと眺めてはみるものの、まあ自分とは遠い世界であることを確認して、さっさと退去。
 さらに二人は通りすがりの八坂神社の提燈の明かりに誘われて、境内を一巡りして、今晩の宿へやっと到着。たぶん8時頃だった。
 この夜、筆舌に尽し難い体験をすることとなるのだ。
★ツレが「撮って、撮って」というのだけれど、私は食べるのに忙しくて気が付けば撮影していたのはこれだけだった。