京都へっぽこ珍道中 その二四

 コロコロをガラゴロいわせながら、石塀小路を後にする。コロコロはあいかわずに思った方向には進んでくれない。またちょっと道に迷いつつ、東大路通りへと降りていく。ここから京都駅までバスに乗るつもりなのだ。
 で、ふと思ったのだが、このコロコロの普及は、ほんらい歩道の平滑化に比例するべきものではあるまいか。でもスッチーが空港の通路を颯爽とこれを引きながら歩いているシーンが、マスコミで喧伝されたことで、いわば爆発的に誰も彼もが持つようになってしまった。
 京都へ行くときの新幹線の改札では四方八方から、コロコロを引いたオヤジたち(おっと私もだが)が、まるで川の支流が本流に交わるかのように集まっていた。危ないったらありゃしない。
 しかしどうだろう。公共のスペースは、すべての人がコロコロを引けるほど余裕がないのでないか。また、そんなにコロコロは便利なのか。確かにスッチーのように(あくまで想像)、都会のマンションに住んでいて、すぐに地下鉄に乗ることができて、そして空港までほぽすべての歩道が滑らかであれば、その利便性は認めよう。でも今回の私のように、石畳の上や乗り合いバスを利用したりする場合、それを認めたくはない。
 そして何より、個人的な嗜好なのだけれど、家の中に入れるものを地面に触れさせたくないのだ。
 と長々と書いてきたが、その間にも東大路通りにバスはやって来ない、来たと思っても、特急バスで、素通りしてしまう。そしてそのバスもなにやら超満員なのだ。
 それを見て、私の脳裏に不安が過ぎった。京都に着いて最初のバスに乗った時の、どこかのオヤジとの言い争いである。またそんなことになるのはいやだなぁ、と思ったのだ。
 で、私はツレの了解を得つつ、右手を挙げた。タクシーに乗ることにしたのだ。
 あっけなくも、すぐにタクシーはつかまって、楽チン楽チンと、私たちは京都駅へと向う。
 みれば他のバスの停留所にも長蛇の列ができている。金曜の夕方である。やはり観光客は多い。この選択は正解だったようだ。
 京都駅近くになると、街は以外と閑散としているように見えた。たまたまそれがタクシーのコースだったのかもしれないが、京都に鉄道というものが「上洛」するときの事情とやらがあったのかと空想してみる。地図を見ると、JRや私鉄も興味深い路線を辿っている。
 さて、京都駅が近づくと、どうにか車の外がにぎやかになってきた。見上げれば京都タワーが見えてきた。
 私たちは 最初に訪れたバスの案内所の近くでタクシーを降りた。でも新幹線の時間まであと2時間ほどある。とにかくコロコロを引いていたのでは、移動もままならないので、地下のコインロッカーにそれを預けることにした。あの宿よりは安全だろう。
 「さて、これからどうしょう」
 まるで今回の京都旅行のおきまりの呪文のように、その言葉が口から出たのではあった。
★ステーションビルに映った京都タワー。昇ったことはないけれど。