新しい意味合い

昨日、小説トリッパーに連載されていた佐々木譲さんの『婢伝五稜郭』を読み終えた。季刊誌なので、前中後編を三つの季節に跨って読むことになってしまった。どうやら記憶力のとぼしい私には、ふさわしい読み方ではなかったようだ。すでに単行本が発売されているはずなので、改めてもう一読すべきだろう。
 今回はさらに10月に俳優座劇場での劇場版を鑑賞していたので、どうしても艶やかな展開のそちらの方にイメージが引きずられてしまったのだ。小説は譲さんお得意の追跡劇のカタチを取りながら、一人の女性看護師が、短い期間に大きく変貌する精神史の側面を持っている。
 もちろんスリルとサスペンスも盛り込まれているが、私が興味を持ったのは、まず竹富久太郎というキャラクターだった。主人公の敵陣営にいながら、主人公の味方の三枝弁次郎よりもも魅力的に描かれているように思う。
 またアイヌの存在も重要な要素だ。他の五稜郭後日談でもアイヌは大きな存在で、その視座は今回も変わることはない。ただ短い言葉だが、アイヌ語が登場している。こういったことは今までの作品になかったような気がする。
 しっかりと確認はしていないが、もしそうだとすると、今までの作品では、日本人と混じることで日本語を知ったアイヌを登場させていたのが、この小説では、主人公がカタコトではあるにせよ、アイヌ語を習得しようとしている。ここに今までとは違った新しい意味合いが生まれているのだと思う。そして物語の終り方も、その意味合いを裏打ちしているのではないだろうか。
 この作品を読んで、私は録画しておいた萱野茂さんの「わが心の旅」を観ることにした。萱野さんはこの番組で、スコットランドを旅している。(この項目続きます)