マキリとセーター

(昨日の続き)
 さて、萱野茂さんはご存知の通り、残念ながら数年前に亡くなられているが、生前はアイヌ人として北海道の二風谷(にぶたに)のアイヌ資料館の館長を長く務め、一時期国会議員の職にもついていた。またアイヌの生活や宗教行事の道具を蒐集して、その集大成ともいえる『アイヌの民具』を出版されているほか、多くの著作がある。
 その萱野さんが「心の旅」の旅先として、スコットランドを選んだのが、少し不思議だった。しかしその謎は番組の冒頭で明らかにされる。萱野さんやその父親たちのコタン(集落)である二風谷で病院を開設し、アイヌの研究したマンローさんの故郷がスコットランドだったのだ。
 ちなみにそのマンローさんは明治26年に来日し、38年に帰化、昭和5年から亡くなる17年まで二風谷で活動を続け、千代夫人とともにその地に墓が建てられているという。
 番組の中で萱野さんは、地元の図書館を訪ねる。そこにマンローさんが集めたアイヌの資料が所蔵されているのだ。まずテレビカメラが映したのは、数多くのマキリだった。それにはちょっと驚いた。というのも、その前日に読んでいた『婢伝五稜郭』のラスト近くで、これが重要な役割を果たしていたからだ。
 男性用の小刀のようなものだが、小説を読んだときには、そのカタチが曖昧のままだった。しかし画面にゴロリと出てくるマキリは、ただ単に生活用具というよりも、もっと深いところで使い手と繋がっている。そのことはカタチや文様を見た瞬間にわかる。そこには、しっかりと使い手の属性、そして継承されてきた文化が表現されているのだ。
 ここでふと思ったのは、ケルトの漁師たちのセーターのことである。
(この項目続きます)