あの日の午後 04

 その渋滞は突然、前が動き出したり、あるいはまったく停まってしまったりする渋滞ではなく、とにかくじっくりとただゆっくりと進む渋滞だった。クルマは人が歩くよりは速く、しかしたぶん自転車よりは遅く、国道4号線を北上していった。
 もうナビを使う必要がなくなったので、テレビのスイッチを入れた。するとはなはだ荒れた画面に信じられないものが映し出された。それは空撮で、まばらに人家のある畑か水田を、まるで巨大な舌が飲み込んでいくようだった。こんな映像はいままで見たことがなかった。事態は自分の想像を遥かに越えているようだ。北千住でツレを探していたときに見た駅前の大きなモニター画面では、それは映し出されていなかったと思う。その画面を見た横断橋では、何を勘違いしているのか、一人の若者がずっとローラーボードに興じていた。
 道はただまっすぐ北を目指す。サラリーマン氏は秋葉原の会社に勤めているという。揺れでロッカーが倒れてしまい、コートを取り出すことができなかったそうだ。たしかにスーツ姿の彼は見るからに寒そうだった。
 おばさんは買い物に来ていたのだろう。中学生は学校だろうか。そう運動部のバッグを持っていたので、試合か練習だったのかもしれない。しかし余計なことを聞くのはよそう。
 竹ノ塚近くでおばさんが降りた。彼女は何度もお礼をいって、お辞儀をした。停め易い場所がなかったので、後ろのクルマに迷惑が掛かる。案の定、トラックがパッシングしてクラクションを鳴らしたあと、わざとらしく大きくハンドルを切って、抜いていく。ほんの20秒ぐらいなのに。
 その先、草加バイパスに入ると流れが良くなる。すぐに草加駅に通じる道に着いた。まだ9時前なのに、駅周辺は深夜のように静まり返っている。サラリーマン氏は駅までなら家族が迎えに来るという。そして1000円札をお礼ということで差し出した。私は断るが彼が譲らないので、受け取ることにした。サラリーマン氏は人影のない駅前ロータリーへ歩み出した。
 残りは男子中学生だけだが、ここでまずいことに気づく。クルマのナビが古いので、彼の暫定目的地である三郷中央駅が入っていないのだ。