その日の午後 05

 どこにあるのかわからない三郷中央駅へ向かうには、どうしたらいいか。
 しょうがない。地図を買うことにしょう。ちょうどここは草加駅だ。近くに2件の本屋があるはずと、中学生とツレをクルマに残して、まず高架下の本屋に行くが、なんと商店街全体がすべてシャッターを下りている。さらに東口のマルイ近くの書店も閉店していた。人もほとんど歩いていない。さっきまでの北千住の雑踏や幹線道路の渋滞が嘘のようだ。
 また高架を潜って引き返す。その出口近くで、上から大量の水が滴り落ちている。どこかのパイプが破断したようだ。そうそう、思い出した。クルマを停めた近くにコンビニがあったはずだ。そこで埼玉県の安価な地図が見つかった。価格は980円。先ほどサラリーマン氏からもらった千円を使わしてもらおう。
 クルマに戻ると、蛇行走行する2台のバイクが近くをすり抜けていく。北千住のスケボー男もそうだが、こんなときにもそんな輩はやっぱりいる。いや、この非日常的な時間に繰り出すことが快感なのかもしれない。
 薄暗いクルマのルームライトで三郷中央駅を確認する。市役所の少し南にある。外環の下の国道298号線を走って、南下すればいいようだ。そんなふうにだいたいのあたりをつけて、エンジンを駆けた。
 西に向かう車線もそれなりに混んでいたが、東に向かう車線は渋滞でほとんど動いていないように見える。帰りが思いやられる。上の外環道にクルマは走っていないはずだ。
 三郷インターチェンジを通り抜けてから左に折れた。すると原っぱのような場所に三郷市の市役所が建っている。前の道は通り抜けられないほどに狭い。とにかく目標としていた建物には着いた。ここを南下すればいい。ただ地図はあまり細かくないので、正確なところはわからない。
 またコンビニを発見すると、ツレが道を聞いてくるという。こういうときの彼女の行動は早い。レジの女の子は、このまま進むと大きな道に出るから、そこを左に曲がると見えますよ、という。確かに壊れかけた舗装路が、きれいに整備された大きな道に繋がっていた。そしてその先にオブジェのような三郷中央駅が見えた。
 信じられないほど敷地は広い。まるで空港か何かのアプローチのようだ。そこにクルマを滑り込ませる。駅のシャッターは下りていて、タクシー乗り場に十数人の列ができていた。この駅で下ろされてしまった客なのだろうか。一瞬、草加の方へ行きたい人を乗せようかとも思ったが、それでは切りがなくなるかもしれない。中学生の親はここまで迎えに来るのだという。しかし寒さをしのぐ場所は見当たらない。でも男の子だ。大丈夫だろう。
 彼のバッグをトランクから下ろす。両サイドが四角い鞄、よく野球部が持っているヤツだ。
 「キミは野球部なのかい」、そう聞くと、彼は初めてニコリと微笑んだ。
 「はい、そうです」
 「それじゃ、家族が着くまでかんばってくれ」
 「はい、ありがとうございました」
 そして、私とツレはタクシー待ちの列に少し後ろ髪を引かれつつ、自分の落ち着き場所を目指すことにした。