落ち着いて、落書きを消す。

 昨日書いたように、慶賀すべき佐藤泰志さんの作品の文庫化ラッシュなのだが、ひとつだけヒネクレ読者から苦言を呈したい。
 文庫、『そこのみにて光り輝く』の52ページの後から3行目、「達夫は浜でのように落書きを失った。」って、どうしても変でしょ。そこでクレイン社の『作品集』で該当部分を確認すると、やっぱり「落書き」ではなく「落ち着き」。
 シロウト考えでは、小説(もちろんそれ以外でも)は、雑誌掲載、単行本、文庫本の順に誤字、誤植が少なくなっていくものと理解している。単行本は1989年に出ているようなので、たぶん電算化されている。今回はそのデータをそのまま使ったのか、それともまた一から打っていったのかはわかならないけれど、とにかく残念だ。『作品集』で直っていたのは、発行者の文弘樹さんの校正によるものなのだろうか。
 しかし、こんなことは読みやすい小説だから気がつくこと。現在、わけあって、果敢というか無謀というか、読もうとしているボルヘスの『伝奇集』には手を焼いている。豊穣なる文体が緻密に組まれているようなのだが、ほぼ歯がたたない。こんな中に誤植があったとしても、まずは気付くことはないだろう。