狭い場所の一瞬の出来事

 マンションの上りのエレベーターに小学生の男の子と乗り合わせた。
 4年生、いや3年、もしかすると2年生かも。
 彼があとから乗ってきたので、私は彼の前に立っている。でもちょっとだけ私の顔を確認でもするように振り向いて、そしてそのことをしっかりと私が気づかないうちに、彼は前に向き直った。私の住まいの下の階のボタンを押していたので、彼が先に降りる。私はやや油断していた。何か別のことを考えていたのかもしれない。
 彼は降り際にちゃんと「失礼します」と挨拶をした。しかし私はなぜかドギマギしてしまって、「ああ、どうも」としかいえなかった。なんともだらしないオヤジである。
 このマンションは子供の方が礼儀正しい。いい大人の半分ぐらいは何もいわずにすっと自分の階に消えていく。でも例えばシャカシャカと音楽を聴いていた高校生でも、降りる段になるとイヤホンを外して、かわいく「失礼します」とお辞儀までする。そんなシーンに出会うとおじさんはすぐにじーんとなってしまうのだ。
 彼らに笑われないように、私も心してエレベーターに乗ることにしよう。