バーデコヤの子守唄

 (昨日の続き)
 しかし一回で書こうと思ったのに、こんなに続いてしまうとは。つくづく「短編」には向いていないのかも、といってみたりもする。
 てなことで、イベントは進み、アレレレ、小浜さんが特別賞の受賞者も舞台に呼んでいるではないか。大森賞の片瀬二郎さんと堀晃賞の私だ。当然のことながら、大森さんが片瀬さんの作品を、そして堀さんに私の作品の論評していただく。まったくありがたいことである。
 「会社、辞めたんで書き始めました」なんていったら、小浜さんから「会社は辞めないでください」とたしなめられてしまった。トホホホ。まあ大丈夫です。
 さらには大森さんが理想とする選考方法を開陳。封筒を開けるのがめんどうなので、わんこそば式に渡して欲しいという。まんざら虚構に思えないのがスゴイ。 
 ということで、イベントも大団円。そのあと堀さんたちのサイン会が始まったのだが、堀晃賞受賞者ともあろうものが、自宅に本を忘れてきてしまった。なので慌てて書籍販売のワゴンに向かい『バビロニア・ウェーブ』を購入して、列に並ぶ。まだ手垢が付いていない本にサインをお願いするのは失礼かとも思ったが、しかたがない。
 サインをいただくときに堀さんがジャズ好きだと知っていたので、自分の着ていたユニクロのTシャツの話をする。サックス奏者のJ.R.モントローズのLPジャケットが描かれているのだ。
 それから2次会の会場へ。途中、東京創元社のスタッフ(といっていいのかな)の人たちと合流する。道中なかなかディーブな話が放射されている。
 「Barでこや」の2階は8人程度が座れるテーブルが三つ。その真ん中で借りてきた猫のようにおとなしく座っていたら、会場にどんどんと人が集まり、40人ぐらいにはなったろうか。小浜さんが人数を知りたいというので、テーブル毎に確認をする。
「こっちは8人」「ここは9人です」「ええっと8人ですね」と聞いて小浜さんは、「ええっと、8と9と8で何人だっけ・・・」と、先ほどの堀さんを笑った顔がウソのような事態に。立ち飲みの人もずいぶんいたので、適当に席を立ったりしながら時間が早く流れていく。
 会場はしゃべりあう声が立ち込めて、小声ではとても話ができない。コミュニケーションの媒体がコミュニケーションそのものを阻害しているといった、まさにSF的空間、でもないか。あまりにディープな話にチト入れないでいる私を思ってか、隣の冨川さんが助け舟、なんてやさしい人なんだろう。
 気がつけば、前に座った人たちに向かって私は、『ソラリス』の飯田訳と沼野訳の違いをエラソーに講釈していた。うう、思い出すと恥ずかしい。
 堀さんにご挨拶をと近づくと、周りの人が席を空けてくれる。ありがたい。そしてしばし談義、『バビロニア・ウェーブ』での飛行はホーマン軌道ではないのかしらん、などという質問をしてしまった。ここで撮影した写真が堀さんのブログに掲載されています。
 さらにいつしか酉島さんの隣に座っている。彼ともタルコフスキーの話をする。『鏡』が特にお好きとか。ふと私が酉島さんの文章が、とあるドイツの芸術家のイメージに似ていると話をするも、その名前が出てこない。彼が「たしかとても重い本なんかありましたよね」といったのを受けて、浮かび上がってきたのが、アンゼルム・キーファー。しかし人との会話に彼の名前を出せるとは、心地いい限りです。
 「ミステリーズ!」には高山さんと北原さんのサインをもらう。高山さんは私の名前を見て、「かっこいい。ええっ本名なんですか。ペンネームかと思った」などとほめ上手である。その近くで松崎さんが沈没していた。
 かくして夜はさらに更けて、もう11時半あたりでお開きとなる。軟体動物と化した人を2階から降ろすのに苦労しているようだが、私や冨川さんはすでに終電に間に合うかどうかなので、早足でその現場から立ち去る。しかしほんとうに楽しい夜だった。しっかりと終電に乗り遅れてしまったとしても。みなさん、ありがとうございました。