20年ぶりのオオエの健ちゃん

 本日、大江健三郎さんの『治療塔』読了。
 しかし、うーむ、微妙だ。SF的なエンタメ性は最初から期待していなかったのだけれど、他の作品に感じられたキリキリとした緊張感というか、スベスベした静謐感があまり伝わってはこない。これはつまりいつもの私小説的な世界でありながら、高度な技術を実現している世界でもあるという風景を、読者がイメージしにくいからなのかもしれない。
 しかし、考えてみれば最後に大江作品を読んだのは『「雨の木」を聴く女たち』で、たぶん20年ぐらい前なんだから、四の五のいう権利なんてないのだ。
 それにしても放射能汚染が一般化して、それでも日常がそのままある場面において、子供や妊婦には一級の食物を与えて、それ以外の人は汚染している可能性のある食物を摂るというのは、あまりにこんにち的で、ゾクッとしてしまった。
 この本もまた『ソラリス』解釈の参考になればと読んでみたのだけれど、どちらかといえば、それよりも『2001年宇宙の旅』的であり、『幼年期の終わり』的でもあるようだ。
 でも最終結論は『治療塔惑星』を読んでからということになるかな。