少し変わった風景

 昨日、外出から戻ると駅近くのガード下の駐輪場に花と供物が・・・。いったい何がと考えつつも、ふと思い当たることがある。家に着いてから地域の私的サイトを見ると、やはりそうだったのだ。
 私がここに引っ越してきたのは、9年ほど前だがその頃も駅の周辺で一人だけで生活しているホームレスのおばあさんがいた。小さな身体を黒っぽい衣装で包んでいたが、四季それぞれに合わせたコーディネイトを、それなりにしていたようだ。行動エリアは駅前ロータリーと隣接するスーパーの通りの反対側の歩道。スーパー側にいないのは人通りが多かったせいだろうか。
 歩いていないときは、チラシの裏などに何かを書いていたりした。一度だけだがスーパーで買い物をしているのを目撃したこともある。
 地域サイトはそんな彼女が亡くなったことを伝えていた。15日の午前11時半、救急車が来たが間に合わなかったらしい。名前はひろこさん、サイトにはそうあった。彼女は擦り切れたほうきであたりを掃除していた。屈み込んだ彼女の顔の近くまで自分の顔を寄せて、なにやら説得している女性を見たこともある。役所とか施設の関係者ではなかったと思う。
 いい意味で彼女は町の風景であり、その風景にみんなは知らず知らず親しみを覚えていた。彼女はごく限られた地域で最大の「有名人」だった。
 「最近、見ないね」「いや、昨日公園の方で見かけたよ」。たぶんそんな会話が今まで何度も交わされたことだろう。そんな会話がもう無くなる。サイトによると、20年ほどここで暮らしていたそうだ。
 みんなが知っている彼女が亡くなった。その場所に花束や供物が捧げられている。それを見て、みんながそのことを思う。今日から駅前の風景が少し変わっていく。