手探り出社

 実をいうと少し前に、年刊日本SF傑作選『結晶銀河』(創元SF文庫)を読み終わっていた。それぞれ想像力をビキバキと揺さぶる作品ばかりなのだが、その揺さぶり方が生半可でなかったのは、やはり酉島伝法さんの『皆勤の徒』ということになるだろう。
 正直いうとこの本が発行された直後にトライしていたんだけれど、十数ページほど読み進んだあたりで酸欠状態になってしまい、栞を挟んだまま別の本に浮気してしまったのだった。
 だがその後、ご本人ともお話をさせていただき、どうにか安全であることを確認(!)したので、再チャレンジとあいなった。
 いやはやまさにイメージの濁流。二十ページぐらいからはその流れというかテンポを掴んだようで、手探りながらも前へ進むことができる。しかし途中何度も脳内への変換作業は中断され、場合によっては放棄せざるを得なかった箇所も多多である。しかしこの放棄もまた読書の一部ではあるまいか、と思わせてくれる一作なのだ。
 読みながら最初に浮かんだのは、現代美術作家アンゼルム・キーファーの作品群である。これらは基本的には乾いた感じなのに対して『皆勤の徒』はずぶ濡れ感タップリだが、それでも不思議にリンクしている気が(個人の感想です)する。
 しかし物語に動きが出てくると、俄然小説『ソラリス』(沼野訳の方ね)の中でクドクドと説明されるソラリス表面の生成物となる。
 てなことで、貧相な私のイメージ力はこの作品を読み進めるにつれタジタジとなってしまい、勝手にキーファーやソラリスを援護射撃に使ったがゆえに、無事読み終えることができたのかもしれない。ふぅ、ちょっと疲れたけど、こんな体験、なかなかできるものではない。楽しかったな。酉島さんありがとう。