駅前の記憶

 この夏、最寄の駅を生活空間にしていたホームレスの女性が亡くなった。その日以来、彼女の最期の場所となった駅前の自転車置き場には、多くの花や飲み物、食べ物が手向けられてきた。彼女はこの街一番の有名人だったようだ。
 日を置いてもそれが途切れることはなかった。一時期には暗黙に許されているであろう柵の幅いっぱんにまで、その供物は広がっていく。
 やがてひと月以上たっただろうか、管理者から10月5日をもって献花等を片付けさせていただく、という遠慮気味のお知らせの小さなボードがぶら下げられた。
 亡くなったのが8月15日だったので、四十九日には少し余るはずだがそのあたりが見極めと思ったのだろう。今朝その場所を通り掛かるとそこはかつてのままとなっていた。
 しかし駅前のロータリーの歩道でふと思うことがある。箒と塵取りを持った彼女がやや不自由な足取りで現れやしないかと。