理的フリカケテンコ盛り

 先日、池澤夏樹さんの『星界からの報告』を読んだ。初期の短編などには理科系のフリカケがちょちょいとまぶしてあるが、これはエッセイなので、かなりダイレクトに星々についての彼の思いが述べられている。
 私の知っている限りでいうと、一般の作家の中で星を語る人は少ないのではあるまいか。もちろん池澤さんは埼玉大学の理学部中退という、れっきとして理系作家ではある。しかしそれをいうのなら、他にも理系作家はあまたいるのではないか。
 理系でない理系好きの読者としては、つまり厳密な理系の回路が脳髄に組み込まれていない読者としては、このような理的表現はとても貴重な存在なのだ。
 もちろんこの本は、直接的に星や宇宙のことを述べているのではなく、さまざまな文学表現を通して想像を巡らしている。この橋渡り的な妙技がたまらない魅力である。
 優秀な書き手であれば、この小さな一冊はとても便利なネタ帳として活用できそうだが、凡庸なる脳みそはただ感心するのみなのだ。