天体望遠鏡への遠望 その7

(昨日の続き)
 高校時代に一回だけ皆既月食の本格的な撮影をしたことがある。ただし私のクラブの先輩のサポート役だ。書き忘れたけど、当時私が所属していたのは物理部(オマケに放送部にもいたけど)で、それはアマチュア無線班と天文班のニ班に分かれていた。しかし残念ながら天文班というのは昼間はほとんどなにもすることがない。
 でも一回だけ黒点観測でもしてみようかと、昼休みに望遠鏡を取り出して、白い紙に映った黒点を鉛筆で書き留めてみたけれど、これがまったくつまらない。それに昼休みがそのことでつぶれてしまうのももったいない、ということで太陽観察は簡単に挫折。
 で、いま思いついた。昼間の月っておもしろいかもしれない。もちろん月面のコントラストは弱いけれども、写真が撮れないこともない。でもまあいい、本題に戻ろう。
 で、いったいそれがいつだったかを忘れてしまったので、ネットで調べてみると、私の高校時代に皆既月食が起こったのは、1974年の11月ということになる。あれれ、しっかり受験勉強の時期だけど、やっぱり懲りずに空を見上げていたのですね。ということは、先輩はすでに大学生だったことになる。あの頃は、先生方にはなんの断りもなく先輩がやってきて、仲良く活動することが当たり前の時代だった。たぶんいまでは無理だろうけど。
 先輩は薬学部に入ったはず。きちんと理系してたわけだ。紆余曲折があって文系の私とは大違いである。
 で、その彼と後輩の手も借りて、物理部が管理していた20センチ赤道儀反射望遠鏡を学校の屋上に運び込む。鏡筒は手作りで金属で覆われたタイプではなく、何本かのパイプが組まれた構造になっていた。ただし架台は既製品だ。先輩はどこからか仕入れてきたアタッチメントを装着して、直焦点で月食の過程を撮影するという。数人だけの天文班からなぜか私がサポート役を仰せつかることに。カメラは当然一眼レフ。
 まずは遠くの高架線のテッペンで、本体とファインダーの方向を一致させる。次に赤道儀の軸を天の北極に合わせるために赤緯を90度にして、望遠鏡の視野の真ん中に北極星を入れる。北極星がほんとうの天の北極ではないけれど、このくらいの誤差は問題ない。これで赤経側だけを回転させていけば、視野から月は外れることはないはず。
 さて、時刻となった。地球薄い影に入っていた月がもうすぐ皆既を始める。私はタイムキーパーだ。撮影は3分おきと決まっている。時刻はすでに117で合わせてある。
 まだまったく欠けていない月を一枚だけ撮る。振動を与えないように撮影前にカメラの中のミラーをアップさせる。シャッターもレリーズを使う。
 いつもと違うシャッター音が、真っ暗な校舎の屋上に響き始めた。(続きます)