天体望遠鏡への遠望 その8

(昨日の続き)
 当然のことだけど、他の星と同様に月も天空には留まってはくれない。肉眼ではそれほど速くは見えないけれど、望遠鏡で観てみるとこれがかなり速く感じる。まずは地球が自転していることと、月が地球の周囲を回っていることの関係で、一日前の地点とほぼ同じ場所に来るのは24時間ではなく、それよりも時間が掛かる。例えば月の出が日々遅くなるといった具合に。まあこのあたりが太陰暦の起源だと思うけど、よくわからないので割愛。
 で、なんだって、そう皆既月食の撮影の話だ。自動追尾式の赤道儀なんてもっていなかったから、月を追いかけるのは手動となる。これが写真撮影ではやや面倒なのだ。しかも今回は待ってはくれない皆既月食。テキパキと作業を進めないとちゃんとした連続写真は撮れない。
 まずは皆既前に一枚、それ以降は5分に一枚ずつ撮っていくことにした。
 望遠鏡に接続されたカメラのファインダーで月の位置を確認する。少し後に視野の中央にくるぐらいの位置に月を収める。ピントはもちろん無限大で、ピント合わせは望遠鏡の方で行う。絞りは開放。シャッタースピードは先輩がそのカケ具合で判断する。
 一枚撮り終わると次の撮影予定時間までの残り時間を私がいう。「次は11時25分、残り3分・・・」
 その残り時間の間に先輩は望遠鏡の向きを微調整し、再度ピントを合わせて、露出時間を決める。
 「残り30秒・・・」ぐらいになるとカメラのミラーをアップする。できるだけ振動を少なくするためだ。もろちんシャッターを押すのはレリーズを使う。
 「はい、10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」でシャッターを切る。
 「125分の1」と先輩は露出時間を私に報告する。私はそれをメモする。
 皆既になると、回りの星が増えてくる。それを一瞬だけ堪能して、また作業に戻る。太陽と地球、そして月、その壮大でありながら近しい関係の天体が織りなすダイナミックな現象に、高校生は素直に感動していた。かなり寒かったけど。
 皆既が終わって私たちは部室に戻った。まだ望遠鏡はそのままにしておく。これからまたどこかの惑星でも観てみよう。そう考えつつ啜るカップラーメンがことのほかうまかった。
 その後、先輩は皆既月食のリバーサルフィルムで撮影した連続写真を天文雑誌に送った。その中の一枚が皆既月食の特集ページに掲載されたのである。(あと少し続きます)