静かの海の赤旗

 そしてまた昨日の続き。
 当時、さらに『宇宙からの脱出』の作家マーティン・ケイディンの別の小説、『月は誰のもの』も読んでみた。やはりこれもハヤカワ・ノヴェルズだ。これは1967年に書かれた作品なのだけれど、日本での出版は当然アポロ人気華やかなりし頃の1969年だ。
 この小説はあの頃を切迫感を反映していた。つまり1967年頃といえばまだ月着陸一番乗りをするのがどの国なのか、つまりはアメリカなのか、ソビエトなのかわからなかった時代だったのだ。今考えれば、ソビエトなんて無理っしょ、という感覚がほとんどだと思うだろうけれど、なんといっても最初の人工衛星、最初に有人衛星、その他もろもろはすべてソビエトの栄冠だったのだよ。
 で、この小説も初の月着陸の栄誉を得たがソビエトということになっている。事実、アポロ11号と時を同じくしてソビエト無人の月探査体を送り出し、結局失敗に終わったけれど、もしかすると月の石お持ち帰り第一号はソビエトの手によったかもしれなかったのだ。
 そんなこんなで、この小説はアメリカでの発行当時は、近未来を描いたSFだったんだけど、日本で発行されたときには、なんと歴史改変SFになっちゃってるんだよね。