寒さの中の二つのバラ

 ひさしぶりに無人の実家へ行った。
 近くで不幸があったので、まずお香典を渡す。通夜と告別式は、少し離れた場所で執り行われていた。亡くなったのはその家のご主人で、まだ59歳だったという。
 そして雨戸を開けて、自分の両親の仏壇に線香をあげる。家の中が冷え切っていたので、石油ストーブに火を入れる。ボッと音がする。
 ツレが花を持ってきて、それを活ける。
 私はかつての自分の部屋があった2階に行く。何冊かのグラフ誌が見つかった。今後の資料になってくれるだろう。
 この家を出てから、20年以上たつ。でも照明のスイッチや、生活小物は場所はいちいち考えなくても、かってにそこに手を伸びている。
 父がいつも寝転がっていたソファ。
 母が丸まってテレビを観ていた椅子。
 二人の携帯電話は、まだそのまま二つテレビの棚の上にある。
 郵便受けにはあまり郵便物が入っていない。あるのはチラシばかりだ。
 壁に飾った写真をツレが見る。
 一昨年の正月に撮ったもの。みんなが家の前に並んでいる。
 ツレの視線が窓に移った。その向こうにバラのつぼみが二つ揺れていた。
 それを私が摘み、ツレがすでに活けてあったバラの花瓶に付け加えた。
 そして、居間と仏壇のある和室に小さい電気を灯して、出入りできるようにその扉は開いたままで、もう一度だけ、線香に火を点ける。