土曜の夜のお楽しみ

 泉大助さんが亡くなった。
 ネットのニュースで最初にその報に接して、一瞬だけ誰だかわからなかったが、でもそのすぐ後に「そうあの人だ」と理解した。それはたぶん文字ではなく、言葉として「泉大助」さんを記憶していたからなのだろう。
 子供の頃、今ではにわかには信じられないが、いつもは9時に眠らなくてはいけなかった。でも土曜日だけは、明日が日曜日だということで、9時30分まで起きていることが許されていたのである。その貴重な30分は、当然テレビ視聴で消費される。そしてその番組が「スバリ! 当てましょう」で、司会を務めていたのが泉大助さんだったのだ。
 新聞によると、放送は1961年からの十年間ほどだったという。とすると、私が見ていたのは後半だったはずだ。
 番組の趣旨は極めて簡単で、何組かの回答者が提出されるモノの値段を推理する。そしてその中で一番うちはを競うもの。確か最初は見た目で判断し、次に何らかのヒントが出るという構成ではなかったか。で、一発で的中できると、「スバリ賞」となるのだ。この言葉はレトロな雰囲気を残しつつ、現在でも(たぶん)有効だと思う。
 まさに高度成長期に合致した番組だったかもしれない。もちろん普通の一般消費財が出てくるだけではないのだが、モノの値段に関心が収れんしていくというのは、やはり時代性だろう。
 その下世話な部分を、泉大助さんの清潔感のある顔立ちと身のこなし、そして語り口が払拭させていた。だからそこの10年ほどの長寿番組として成り立ち得たと思うのだ。
 最近の人気長寿番組の「なんでも鑑定団」も薀蓄を語りつつ、結局は値段に収れんしていく。そして視聴者は結局、薀蓄ではなく値段に興味を示す。この番組が存続できたのも、きっと辞めたタレントの司会のせいではなく、石坂浩二さんという「泉さん」的な存在が隣りに控えていたからだと思う。