天国の水飛沫

 数日前の新聞によると、八木敏雄さんが亡くなったという。 
 八木さんは私にとっては、なにより『白鯨』の翻訳者であり、その解説本の『『白鯨』解体』(タイトルに二重鍵括弧があるとき、前後の括弧はどうするのかな)の著者であります。
 『白鯨』の重層的な構造をいかに楽しむかは、この解体が教えてくれました。タイトルもまた秀逸で、まさに鯨を解体するように、見事に『白鯨』が解体されていく。
 そういえば昔の少年雑誌には捕鯨の様子を描いたイラストが載っていたよね。そういったものを見たことのない子どもたちは、たぶん『白鯨』を読むのが難しい。
 でも、そんなときはこの解体があるのです。それになにせ白鯨は巨大だから、一生掛かっても味わい切れるものではない。
 また深夜、解体を紐解いて、鯨の味わいに浸ることにしよう。
 八木さん、向こうでも海の遥か彼方に白い水飛沫を見つけてください。