桜台にての奇なる談02

 そしてまたしばらく歩くと、道の左側に三四軒の小さな店舗が並んでいて、住宅街にそこだけ色が付いている。その前を通り過ぎると大きな通りに出る。道幅は桜台通りよりも広いぐらいだ。あの肩を寄せ合った店舗といい、この意味不明に広い道路といい、どうもこのあたりの街の形がアンバランスだ。
 その道を左に進む。道の真ん中に立って先を見ると学校の校庭が望める。しかしそこまでは行かずに、手前にある右の路地を曲がる。今回数えてみるとその路地は三本あった。しかもその三本とも、かつて祖母のアパートがあった場所にたどり着くのだ。
 一番手前を行くとアパートの隣りにあった建物の前に出る。後の二本はアパートの裏手の畑に通じている。不思議に思って一万分の一の地図で確認したが、やはりそうだった。畑へ向かう一本は、その畑の途中に、そう一本は畑の縁へと大きくアールを描いて向かっている。小説で描いた道は、そのアールのついた道だった。いまでも少し肥料のにおいが漂っている。
 祖母のアパートがあった区画はホームベース型をしていて、そのピッチャー側の辺に古い三階の集合住宅が建っている。そして残りの五角形の土地は畑になっていて、一部に十本ほどの低木、残りは野菜が植えられている。つまりここはアパートを潰して畑にしたわけだ。よくある畑を潰してアパートを建てる、というのの逆である。
 小説では書かなかったが、祖母は亡くなる少し前にここを出て、短い時間だったが近くのアパートに住んでいた。大家とのどんな関係があったかは知らないが、かつて彼女が暮らし、たまに親戚が集った極めて狭い空間には、いま低木がずっと昔からそこにあるように植わっている。それにどんな実がなるのかはわからなかった。(続く)