心の中の運河

 またまた学習科学図鑑の『宇宙旅行』について。
 その表紙は前に書いたように、火星に近づく三隻の宇宙船が描かれている。その火星の表面には、いわゆる「運河」がくっかりと走っている。いわば古き良き時代ではある。
 もちろん当時とて、それがなんらかの構築物であるという説は消滅していたが、この本にはまっすぐに伸びる「天然の沼のような川」としてのイラストが掲載されている。
 本文にはそれを望遠鏡で発見したスキャパレリが「すじ」と呼び、このイタリア語の「すじ」が英語では「運河」にあたることが、あの騒動の発端になったとある。
 結局、その「すじ」は、ほとんど目の錯覚であることが明らかになった。まだ一台の探査体も火星に接近していない時代には、望遠鏡を使ったアマチュア、プロ含めての膨大な数に昇る火星表面のスケッチが残された。でも、その「すじ」は、それを心の中で求めている者のうちにこそあったということなのだろう。
 たしか高校時代に火星の大接近があった。火星の軌道が真円ではないので、地球の公転が火星を追い抜くときどきで、その距離がいろいろと変化するわけだ。
 で、私の10センチの反射望遠鏡でも、白く輝く極冠と緑色と茶色の大地を確認。でももちろん運河なんてドコにもない。だけど、10年か20年ぐらい前だったら、まだ「観る」ことができたかもね。