コロリョフからの伝言

 文学フリマ大森望さんと立ち話をしたときに、『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』をお勧めいただく。恥ずかしながら読んでいなかったその本を数日前にやっと購入。まずは巻頭の「主任設計者」。
 このタイトルを見て、ロケット好きの各位はとうぜんのことながら一人の人物を思い浮かべる。フォン・ブラウンじゃありませんよ。そうソビエトの孤高のロケット技術者にして、辣腕なる企画推進者であったセルゲイ・コロリョフ。その短編は彼を実名で登場させて、虚実入り混じりつつ、苦難のソビエト宇宙開発史を、ほろ苦くも描いている。
 その中の一つのエピソード。彼コロリョフが結果的にその舞台を降りることになる場面で、一番の部下に、ツィオルコフスキーの理論書をくまなく読むようにいう。そして戻ったら、それを語り合おうと伝えるである。すでに古典の域に達していたであろうそれが、たとえ虚構の世界であっても、新たなアイデアの源とされるのは美しい。
 そこで私もツィオルコフスキーの本を探した。見つかったのはのちに書かれた啓蒙書だが、それを紐解く時間を楽しみにしている。まるで、コロリョフからの遠い伝言がやっといま届いたかのように。