わがカートはそこにある。

 生業としているツレの運転手(嘘です)をして、近くのスーパーに出掛ける。比較的いい位置の駐車場が空いていたのだけれど、よく見るとその場所にはカートが放置してあったので、我々は、あたりで2番目にいい位置に車を停めて、まったく非常識な人が多いんだから、などと憤慨していた。
 と、最初の場所に、女性が運転する軽自動車が入っていった。カートがあるのは後ろのほうだから、注意していればぶつかることはないけれど、ジャマなことは確かだ。すると女性は他人が置いていったそのカートをガラガラと押して、その集積場所まで運んでいったのだ。
 人はただ憤慨だけをしていればいいというわけではないのだな。
 そして買物を済ませて、さて帰ろうとすると、ツレは別の店に寄っていきたいという。私は眠いので、ベンチではなく、車の中で待つことにした。
 ドアを半開きにして、気持ちいい風を車内に入れながら、夢とうつつをピストン運転していると、くだんの女性が買物を終えて、やはりカートを押して車に戻ってきた。これで彼女がカートを放置すれば、プラマイ・ゼロなのだが、車内に残していたらしい犬に挨拶をしたあと、鼻歌でも歌っているかのように首を揺らしながらカートを押して、また店のほうへと消えていった。あんなにカートを楽しげに押す人を見るのは初めてだった。そして私は自身の精神の荒廃を見た。