埋め草架空対談03

B それじゃ、とにかく駅に着けちゃいましょう。はい、着きました。で、さっき私はこの3分の1は実話だと書きました、いや間違った。いいましたけど、実際に数年前、この桜台を30年ぶりに訪れていたのです。もちろんそれも小説にある通りに、開店早々の床屋にお祝いを兼ねて、散髪に行ったのです。

A つまりその床屋さんはホントにあるんですね。

B はい、あります。この13日にも出掛けようと思ってます。で、そこへ数年前に行ったとき、まず驚いたのが桜台から先の線路が高架になっていることでした。そこまでの駅がみんな地上を走っているのに、桜台が近づくと、窓の外の風景が下がっていく。

C まるで宙に浮くようにとか、飛行機の離陸にも似てとか。

B そこまでの感覚はありませんが、降り立って、へえ、こんなのになっちゃったんだって、ね。それで改札を出ると、高架下の薄暗い空間には何軒かのレストラン、地面はタイル張りで、不思議な感じでした。さらに昔降りていた右、つまり北側を見ると、昔ながらの商店がそのまま建っているのが意外でしたね。でも床屋の案内状は左側、つまり千川通りを越えた南側にあるので、そのまま店へと向かいました。まっ、小説のままです。

C で、あの床屋さんへの道順はほんものですか。

B ほぼほんものです。最初はまさに道案内するように書いたのですが、編集の方からよく分からないといわれたので、袋小路みたいな場所に少し変えてみました。「着いたのが奇跡のような場所だ」って、ほんとは通りに面しています。

C しかしこのことがあとから効いてきますね。

B そうですね。実は祖母のアパートに行く行程にも、近くに小学校があると書いたのですが、それはほんとうにそうだったからです。でも二つも小学校が出てくるのは変なので、こうなったらそれを利用してしまえと、床屋と祖母のアパートは西武池袋線の高架を中心線にしたイビツな鏡像の点として存在している、みたいな描写になったわけです。

C でも最初はそんな意識はなかったんでしょう。

B ありませんでしたね。ただ校正の段階でほかにもいろいろと湧いてきたので、それを書き込ませていただきました。

A 例えばそれはどんなものなんですか。

B そうですね。いや、もうだいぶ書いて、いやしゃべってしまいましたので、そのことはまた自戒、じゃなくて次回ということに。

A ずいぶんと安易なオチにしましたね。

B ポリポリ。