埋め草架空対談06

 C それから湯沸かし器というのもありましたね。昔の庶民の家庭には、ほぼ間違いなく台所の洗い場にあって、子どもの頃、ボッと火が点くのがちょっと怖かったりして。 
 B あのガス湯沸かし器は、自分の暮らしに登場しなくなって、30年ぐらいたちます。つまり祖母のアパートは、インフラの整備が遅れていた、というか、アパートは基本あの湯沸かし器だったような気がします。
 A まあ昔からのアパートはそういった構造ですから、新しい給湯システムを組み入れるのはむずかしいでしょう。今のマンションは、基本的に室外給湯器が設置されていますよね。 
 C となると、逆にアパート住いの若い諸君のほうが、ガス湯沸かし器に詳しいかもしれないですね。
 B そんなことからも今の若い人たちがどんな暮らしをしているのか、見当がつきません。パソコンやスマートフォンなどの最新情報ツールは持っているのに、トイレが共同だったり、トイレと風呂がいっしょだったりするんですよね。
 C 技術が進化しても居住空間の更新はロングスパンですから。それに遅れる個々の物件は廉価で供給される。ネットや電話関係に2、3万も使っている若者は、それを足せばもっといい居住空間が確保できるのに、そういった選択肢はありえないということになる。 
 A 昔、大友克洋さんの作品で、とある若者が暑さに耐えかねて扇風機欲しさに事件を起こすのに、同じ場面にはエアコンが欲しい家族が登場している。欲望と需要の格差社会……。
 C あのぅ、よく分からないし、横道からそこらへんで引き返しましょう。
 B 横道といえば、実際に祖母のアパートはそのあたりの低地にあったので、そこへ向かう道がかなり歪な放射線状になっているんですよ。
 C すべての道は祖母の家に通ずる、と。