足もまた洗えず06

 まだバスは行く。
 いくつか停留所を過ぎると席が空く。しかも最後列の進行方向右の窓側。私は終点まで行くので、隣に人が座ったり、また満員になっても大丈夫。
 今からウン十年も前だが、小学校の遠足のときは、悪友どもといっしょにいつも最後列の席に陣取って、道中騒いでいたものだった。そこは一段高くなっているので、車内や車外ともども見晴らしがいい。
 そう、遠足の思い出とはどこへ行ったということよりも、この閉じられたバスの空間の記憶のほうが鮮明である。そして遠足が終わりに近づいた頃、ガイドさんが「学校まであと何マイル、楽しく歌ってナントカカントカ」みたいな歌をうたう。何マイルなんていったって、どのくらいの距離なのかトンと想像できなかったのだけど。
 ああそうだ。バス遠足といえば必ず吐くヤツがいて、先生はいつもブリキのバケツを持っていった。今日日の先生方はプラスチックのバケツを持参するのだろうか。
 バスは住宅地を走り続ける。意外と細い道もぐんぐんと行く。どこまでいっても家また家、自転車が走り、人が歩いている。床屋があって、酒屋がある。バスにでも乗らなければ、まず見ることもないだろう風景だ。その家の一つ一つに一つ一つの暮らしがあるなんて、なんというか奇跡のようだ。そしてずっとこのバスに乗ったまま、夕焼けを見てみたくなった。