足もまた洗えず08

 ぽつねんと洗足駅前に私は立つ。
 しかし向こう側に洗足池は存在しない。
 ふと、僅かな疑念が、身体の下のほうからぷっくりと浮かんでくるのが分かった。そして私は振り返って、駅の路線図を見る。
 なななんと、洗足駅以外に洗足池駅があるではないか。
 そうだったのだ。洗足駅目蒲線改め、目黒線の駅で、洗足池駅は池上線にある。そして私の記憶にあった駅は洗足池駅であって、洗足駅ではなかったのだ。
 うーむ。いったい何人もの田舎者がこの錯誤に陥ったことだろう。東急電鉄には声を大にしていいたい。こんな紛らわしいことは、やめておくれ。
 洗足駅から洗足池駅までは、大井町線を使って2回乗り換えをしなくては辿り着けない。もともと洗足池に行く必要はなかった。ただ前を通りかかったバスの案内表示に誘われて、まさに安手のテレビ番組のような旅もいんでないかい、と思っただけなのだが、やはり目の前に現れるとさっきまで考えていた池がないとなると、それなりにショックではあった。
 そんなところが、今回のこの連載タイトルの意味するところ。なんでも洗足池の由来は、ええっと誰だった、偉い坊さんがそこで足を洗った(といっても犯罪集団から離れた意味にあらず、念のため)といういわれにあるそうなのだ。
 で、今回終わりそうなこの駄文はなぜかこのあと少しだけ続く。