足もまた洗えず09

 そういうわけで、その立派なお坊さんが足を洗ったという洗足池にたどり着くこともできずに、ただ洗足駅の路線図の前にポケーッと立っていたのだった。
 すでに書いたように洗足駅は、東急目蒲線改め東急目黒線の沿線駅ではあった。おお、なんとかつては目黒駅が終着駅であったはずが、今では都営三田線東京メトロ南北線と相互乗り入れしているではないか。
 三田線は都内をグルリと巡ったあとで、たしか西と新を付け足して都合三つ目の高島平駅で終わっているが、南北線はさらに埼玉高速鉄道という珍妙な名前の路線に繋がっている。
 この二つの路線はちょうど私の住まいのある地点を、まるで竹を裂く力点のように伸びているのだった。それを思うと何だか不思議な気分になってくる。東急の線路がこんなに長くなっていいわけがない、とふと思うのだ。(個人的意見です)おっ、珍しくも、ふと思ったぞ。
 私は勝手に東急電鉄の各路線を、東京の偉大なるローカル線だと思っている。JRや他の民鉄が動脈であるのなら、東急は毛細血管である・・・とまではいわないが、まあそんな感じだ。そう、いい意味でね。
 この東京の南西部を網羅する東急に対するのは、北東部に広がる形成電鉄だが、そのあたりをしゃべり始めると長くなるので割愛。
 とにかくサンダル履きで乗り継ぐことができる東急各路線のエリアは、やや乱暴にいってしまうと、東京本来の味わいを知ることができる地域なのだと思う。
 でも例えばサンダルで行けるのは、この旧目蒲線では目黒までと決まっている。これはいわば長年、旧目蒲線で培われた文化、あるいは生活圏のようなもので、そこから先は魑魅魍魎が跋扈する異界なのである。