散歩あゆめず02

 ご丁寧に「厳重警戒」してくれている警察官の間をすり抜けて、代々木公園のケヤキ並木へと入る。すでに大勢の人が集っていて、まっすぐには歩けないほどだ。
 そうそう、ニュースの話題はこのイベントそのものではなく「警戒」に主眼が置かれていた。最後のコメントがふるっている。「警察によると、大きな混乱はまだ起こっていないもようです」。ニュース項目の末尾にあった言葉はこんなものだった。ご苦労様、警察庁広報部民放班。
 並木道をしばらく行くと右側にはブームが並んでいるけれど、そちらをひやかすこともせずに左に折れて、野外音楽堂のほうに向かう。さっきからもごもごした声が流れていたけれど、よく聞くとその声の主は大江健三郎さんだった。
 今から20年以上前だろうか。ヨーロッパへのアメリカの核ミサイル配備に反対する反核運動が、彼の地でさかんになり、それ勢いが日本まで広がったことがあった。そのときのイベント、日本教育会館(だったか)で開かれた「反核・日本の文学者たち」(とかいう)の集会に出席したら、前の列に何人かの男性が座り始め、目の前にも耳の大きな人が席に着いたと思ったら、それが大江さんだった、ということがある。
 あの一連の運動の頂点が、やはりこの代々木公園周辺で行われた反核集会で、そのときのようすを8ミリフィルムに収めている。しかしそのフィルムはリールから出てきてくれるだろうか。ちょうど8ミリの周辺機器や材料が市場からなくなりつつある時期で、フィルムをつなぐ機械やシートのようなものを買い集めたが、映写機自体がすぐに動かなくなってしまった。
 大江さんの声もあの時代とあまり変わってはいない。でも野外ステージに大江さんの姿は見えない。そこでさきほど受け取ったチラシを開く。すると今日のイベントのメイン会場はこの野外ステージではなく、さらに奥のサッカー場だったことに気づく。そこはフェンスの向こう側。この野外ステージ、そして歩いてきた並木道だけでもかなりの人数だが、これから見ることになる光景は、想像を絶していた。