散歩あゆめず10

 会場のステージではまだ発言やなにやらが続いているが、デモ、またはパレード、個人的には公道散歩に出掛ける人の列が作られつつある。それも今回は三つの方向に分けられる。ここから表参道を抜けて明治公園へ行くコース。公園通りを下って恵比寿に行くコース。そして参宮橋から新宿中央公園へ向かうコースの三つだ。
 新宿へのコースは魅力的だが、どうやら地図の配置をみると労組系が多いみたい。公園通りも政党色がややあるのかもしれない。そういった点でいうと、会場の略図から想像するだけだけど、明治公園へのコースは市民・市民団体・NGOとあるから、これがベストチョイスかな。
 そう思って会場を出て原宿駅のほうに歩き出すが、そこもまた会場だった。代々木公園横の富ヶ谷に抜ける道路が、人で埋め尽くされている。そしてその先頭付近にはトラックの荷台に乗ったバンドがロッケンロールしている。これがいわゆるサウンドデモというヤツか。
 デモといえば以前はシュプレヒコールと相場が決まっていたけれど、アメリカの対イラク戦争に反対する運動あたりから、ただ音を出すだけという様式が一部で始まったようだ。この一端というもので、やや困った事態になったことがある。
 いつだったかはもう忘れてしまったが、夜、その行進が渋谷に差し掛かったときのことだ。近くにただ大きな音でホイッスルを吹いている青年がいて、先頭の人の呼びかけや他の人の声がまったく聞こえない状態になっていた。
 少し我慢をしたのだけれど、いいかげん嫌になったので、もう少し音を小さくしてくれないか、と頼んだ。あくまで丁寧かつ丁重にである。しかしその答えがすごかった。彼はかなり高圧的に、これが自分の主張方法であって誰にもジャマさせないと、やや酔ってでもいるかのように叫んだのだった。それがほんとうに酔っていたのならそのほうがよほど良かっただろう。
 彼の手振り身振りは、まさにこちらに殴りかかろうとしているようなのだ。さすがにそれは近くの仲間らしい人に抑えられたけど、こういったこともまた実際にはあるのである。
 自分の怠惰さを彼のせいにして、私はその後しばらく公道散歩から遠ざかってしまった。