ソラリスのストーカー10

 さて、このスチール写真にあるブリューゲルの絵画の前のインク瓶だが、実際にクリスの母親が部屋を動く際に、どうにかそこにあることが確認できる。
 このインク瓶がその前に現れるのが、母親が登場する場面の冒頭であること、そしてクリスとスナウトの台詞については、すでに書いた。
 ところで、現在開催中のタルコフスキー映画祭は、彼の生誕80年を記念したものなのだけれど、「惑星ソラリス」の中にも、実は生誕ナンタラというモノが、その物語にまったく似つかわしくなく出てくる。
 それがくだんのインク瓶の栓が転がる音とともに、草の育った金属ケースの中にあるコインなのである。そのコインの表面をよく見ると人の顔が刻まれている。今回のデジタルリマスターリングで、さらに見やすくなった。それはレーニンの顔なのである。
 そう、まず間違いなく、そのコインはレーニンの生誕100周年を祝して発行された1ルーブル貨幣だろう。1970年、「惑星ソラリス」の制作年度の2年前にそれは発行されている。
 さて、それではなぜタルコフスキーは、そのコインを金属ケースに入れたのだろうか。