天気晴朗にして波立てず

 水中モーターの話の続き。
 そんなわけで、その頃のガキども、いやさお子さん方は、だいたい小学校の3年か4年になると、一人で銭湯に行くことを許される。まあ当然男子の話で、アッチの方はどんな具合かはわからない。当然、彼らが参集すれば遊びが始まる。
  目の前にあるのは、高き天窓から注ぐ午後の陽の光に輝く大洋である。さてこれをいかにして活用するか。
 ただしここを遊び場とするのには、まだハードルがあった。そこにやってくる大人たちとの暗黙の協定を結ばなくてはいけなかったのだ。子どもたちとはいえ、そこが身体を洗う場であることは重々承知なのである。彼はキチンとその立場をわきまえて、大海、じゃなくて湯船が混雑しているときには、決してそこに船を浮かべなかった。そして湯船の人数とその顔つき、さらには配置を的確に判断して、その遊びのエリアを策定したのである。また時間帯も考慮する必要がある。彼らは混雑を避けて、その遊びの場を広げたのだった。
 そしてまた一つの困難があった。当時は水に浮かべて遊ぶプラモデルといえば、素朴なゴム動力の船が潜水艦が主流だったと思う。たしかにモーターで動くものもあったけれども、船内の配線がほぼ裸だからヘビーデュティの点で劣っているし、なによりやや高価で風呂屋には似つかわしくない。
 結果、ゴム動力をそり大海に浮かべるものの、あっという間にそのゴムは回り切ってしまう。こんなのおもしろくない、のだが、もちろんアヒルのゴム人形やクレージーフォームに戻るわけにはいかないのだ。
 そんな時期に忽然と現れたのが、あの水中モーターだったのである。
 続きます。