目覚めよ、と天使のつぶやき
某日、図書館の閲覧席は、ややさみしい程度にぽつりぽつりと埋まっている。静かな静かな午後。
アレ、何かが聞こえる。
クォー、クォー、クォー、クォー。
かなり離れた場所。席は一人ひとり適度に囲われていて、隣の手元も見えない。もちろんその日は前後左右に人は座ってはいない。
クォー、クォー、グォー、グォグォー。
聞こえるのは誰かの寝息。その発生源とおぼしき場所の近くに、二人のエプロン掛けの女性司書さんが立っていて、やや不安そうにその音源を見つめている。
「スミマセン、お客さま、お具合はいかがですか」
その声と姿は司書さんというよりは、まるで若い保育園の保母さんのよう。
しかし音源からの反応はない。二人の司書さんはしばし見つめあって、また音源に声をそろえて語りかける。
「スミマセン、お客様、お具合は大丈夫ですか」
このお具合という言葉は、こういった音源への対処法とてマニュアルに書かれているのだろう。また二人で対するというのもそれに違いない。しかし音源は反応してくれない。
少しだけ一人の司書さんが音源に近づいた。しかし身体に触れることはない。
「スミマセン、お客様、お具合は……」
やっと音源が目覚めたようだ。二人の司書の顔に安心という字が広がっていく。
いつの日にか私も、この保母さんのような司書さんたちの声でうたた寝の世界から引き戻してもらいたいものだと、夢想するのだ。