彼女はノボリを高く掲げて

 さて、しつこくも会田誠展の続き。
 彼には有名な戦争画RETURNSという連作シリーズがあって、何日か前に紹介したように、ニューヨークを零戦が爆撃したり、かつての激戦地の島々をパック旅行のパンフで表現したり、あるいはアクロポリス原爆ドームを重ねて描いたりしているのだけれど、そんな中にあって唯一作風として戦争画っぽいのが「美しい旗」なのである。
 向かって左に夏仕様のセーラー服を着た女子高生(らしき)人物が、日章旗を竹竿で掲げ、右にはやはり制服っぽいチョゴリを着た女子学生が、大韓民国旗をかざしている。
 一見すると韓国のほうがやや堂々としていて、二本の足ですっくと立っているが、日本のほうはやや旗竿にもたれている。全体に茶色い画面が広がり、人物や後ろの屋根、地面の廃墟のようなものがほぼ黒一色で描かれているあたりが、まさに戦争画さを醸し出している。
 実はこの作品に強く惹かれるのだが、白状してしまうとそのワケはどうにもわからない。ほかの連作作品には、比較的わかりやすいメッセージが仕組まれているが、この絵は今まで他でやってきたような自分勝手的解釈さえできないでいるのだ。
 ただ語り得ることは多くある。しかしいざそれを始めると長話になってしまうだろう。
 だから、最後にひとつバカ話っぽいことを書いて終わりにする。
 この作品はいぜんどこかの美術誌で観たことがあった。そのとき連想したのは、ドラクロアの「民衆を導く自由の女神」。ただ旗を持っているというだけで、似ているといえばあとは後景に土ぼこりが舞っていることぐらい。連想をそこで終えておけばよかったが、後日、出掛けに吉野家の前を通ると、ちょうどその店のノボリを立てようとしている女子アルバイトが目の前に飛び出したのだった。彼女はドラクロアの女神がかぶっていたような帽子(?)に似た紙製の被り物を付けていて、また茶色系の制服は「美しい旗」の女子高生のようでもあった。
 そして私は、ガードレールに旗、つまり牛丼サービス価格280円とか書かれた、風にたなびくノボリを付けんとしている彼女の威風堂々に圧倒されたのである。