カセットレコーダーから茶色い小瓶

 テレビで「グレン・ミラー物語」を観た。二回目か、あるいは三回目か。チャンネルを合わせたときは、まさか全部観てしまうとは思わなかったが、結局、二時間弱の間、飽きずにテレビの前に座っていた。
 あまり熱心ではないジャズファンだから、グレン・ミラーのレコードは一枚も持っていない、というか範疇にない。
 私が財布を広げて買うアーティストは、いくら遡っても1950年代後半以降となる。それより前だとどうしても音が悪くなるのも理由の一つだが、やはりすでにある戦後の名盤で手一杯ということなのだろう。予算と時間は思いっきり限られている。
 でもグレン・ミラーの楽曲自体は好きだ。それを初めて聴いたのは、たぶん中学時代の友人のカセットテープだった。まだラジカセすらなかった時代のテープレコーダーから流れてきたのは「茶色の小瓶」。
 いい曲だけど、ずいぶんと変わったタイトルという印象のほうが強かった。
 考えてみれば、当時の我々はロックに乗り遅れていて、ポップス派と映画音楽派に分裂中、グレン・ミラー好きというのは、やはり異端だろう。映画音楽というのも、いまでは奇異だが、上映中の映画音楽はしっかり放送されていたのである。
 しかし映画を観たくも、ロードショー館は遠く、さらに金もなく、一時間程度の東京さに行って映画を観るのも、年に数回程度。だから映画音楽派は、現物を観ずにラジオから流れるその旋律と雑誌に載った数枚の写真で、想像をたくましくさせていたのだ。もしかするとその妄想の映像は、現物よりも刺激的だったのかもしれない。
 ありゃ、話がそれた。「グレン・ミラー物語」の続きはまた明日。