壇上の夜11

 というわけで、言語世界の奥深さにめまいさえ感じつつ、講演会は終わり、みんなで記念写真とあいなった。撮影するのは開会前から撮りまくっていたスレンダーな長い髪の女性カメラマン。みんなが演壇近くに集まると、彼女から列の並び方が支持される、って、えっ、声が男性? と誰かが「男の子なの」と、誰もが思った疑問を呈する。「はい、男の子です」とくだんカメラマンの受け答えも慣れたもの。きっとよくいわれるのだね。というわけで、不思議な雰囲気になりつつも、和やかな記念写真の場とはあいなった。
 そのあとの祝賀懇親会は、隣の会場かと思ったら、後ろの会場だったので、少し慌てつつ、ビールの栓が抜かれるのを待つ、のだが、あれれ、誰も開けない。しかたがないので、テーブルにあったビール瓶の何本かを自分で抜く。某文芸誌の贈賞式とは違って、皆さんだいぶ奥ゆかしい。
 と、やや時間が掛かりつつも、グラスを手にして乾杯の音頭。このときもまたしっかり口上がある。全体にしっかりとスジが通っている会なのだ。
 で、あとは御歓談の場。しかし宮内さんと前回の受賞者の大野更羅紗さんはサイン会なのだ。ご苦労様です。東京創元社の小浜さんもそのお手伝い。
 ということで、早川書房の井手さんに、「そろそろ宮内さんの本でるんでしょ」と聞くと、どうしてだか笑い顔の怒った口調で、「はい、でます」とのこと。「それじゃ、もう原稿もらってるんですね」とまた聞くと、「いいえ、まだです」と、今度は怒り度合いが増したようす。「でも発売は先だから、余裕ありますよね」というと、「そんなことないです」。これ以上聞くとマジに怒られそうなので、小さくなって消えることにする。