絵を描くフランシス・ベーコン

 前には消防車が一台、赤色灯を点滅されている。人の動きはない。すぐ近くで子どもを抱いた男親が、息子よりも興味深く見ている。
 近づくとロータリーには救急車も停まっていて、担架で病人かけが人を運び入れている。その手前を機動隊のカマボコが通る。何が起こったのかと一瞬思ったが、それは裏手の第一機動隊に帰るだけだった。消防車もたぶん人員を確保するためだろう。
 救急患者が出たらしいその国立近代美術館では、いまフランシス・ベーコン展が開かれている。会期は今月の26日までの残すところ6日のみ。さて、この急患、まさか彼の毒気に当てられたわけではあるまい。
 フランシス・ベーコン、哲学者の名前として有名なこの画家のことを知ったのはかなり昔のこと。と思いつつ本棚に向かう。
 少し黄ばんだ図録はすぐに見つかる。メインタイトルには芸はなく「英国の肖像画」。しかしサブタイトルには「哲学者フランシス・ベイコンから画家フランシス・ベイコンまで」とある。国立西洋美術館で1975年の10月25日から12月14日ので開催されたその展覧会で、私は初めてまだベイコンと呼ばれていたベーコンに会った。もう40年近くも昔のことではないか。なぜそこに行くことにしたのか、その理由はよく憶えていない。ただ図録をめくると、ジョン・シンガー・サージェントの絵が一枚載っている。もしかするとこれを観たいがために出掛けたのかもしれない。(続く)