階段の精神構造

 昨日、1975年の上野のことを書いてたら、記憶がぽつりぽつりと甦ってくる。
 たしかその年に東京都美術館の建て替えが終わった。新しい美術館が古い美術館の隣に作られたから、今ならその両方を見ることができるはずだ。私はそこに行くことにした。というのも、古いエントランスは階段を昇る構造で、威圧的だったのに対して、新しい建物は階段を下る構造で、それはただカタチが変わっただけでなく、美術を展示する側の精神のありようも表している、といった内容の記事を新聞か何かで読んだからだった。
 古い建物の階段を確認する。自然と来館者は建物を見上げつつつ、中に入ることになる。上への位置移動は個々人の精神に何らかの影響を与えるだろう。その意味で階段は政治的仕掛けとなる。しかしその時すでにそこにはフェンスが立ち並んでいて、その影響を体験することはできなかった。(続く)