からっ風に舞うもの

 さて、数日前にフランシス・ベーコン展に行って、入り口で救急車を見掛けたまま、その先には進まず、昔々に一枚の彼の絵を観たことを思い出し、さらに当時のことをぼんやりと振り返って、まだ現代に戻ろうとはしない、まさに居酒屋のいやなオジサン状態ではあるが、そう開き直りつつ、このまま進むことにする。
 ということで、まだ1975年。
 数日前にここで、なぜ国立西洋美術館に行ったかは定かでないと書いたけれど、新しい東京都美術館のオープンに合わせたように、かの東京展の第一回が開催されていて、それを観た帰りに立ち寄ったのかもしれない。
 ここで「かの東京展」と書いたのは、今でもどうやら開催されているらしいそれが、当時かなりの話題となっていたことを意味する。たしか無審査で展示できたはずだ。そういったことが多くの媒体で報道されていて、何も知らない私も観てみたいと思ったのだろう。実際に行ってみると、まだ乾いていない作品や、ド素人の私も首を右六十度に傾けざるを得ない作品があった。
 といっても、ほとんど美術業界のことを知らないままに書いているので、きっと事実誤認もあるとは思う。この主催団体は当時の美術界や公募展などのあり方にそれなりに異議を呈したく、そういった主張をどこかに高らかに掲げていたはずだ。しかしそれが作品に反映していたかどうかというと……わからない。
 1975年、それは古い美術館の政治的ともいえる構造を否定する新しい東京都美術館がオープンし、そしてそこで既存の展覧会に対抗すべく開かれた第一回東京展。くしくもその双方に冠された東京という一地域の名称に、まだ新奇なる可能性を含んでいると思われた、幸せな時代だったといえるのかもしれない。
 あたりには、かのロッパチロッキュウが終焉しつつも、まだ戻るところを見つけられない精神がからっ風に舞っていた頃、私は偶然にもフランシス・ペーコンの一枚に会ったのである。(続く)