家の記憶 一

 亡くなった伯母さんの家の記憶は、のちに二度ほど建て替えられたそれではなく、小学生の頃に何度も訪れた家のままである。
 東京の大田区にあったその家の木戸を開けて中に入ると、スピッツだっただろうか、まず白い犬の洗礼を受ける。まだ犬を怖がる歳だったので、それは十分に私にとっても関門だった。吠えられければ一安心。もし吠えられたとしても繋がれていたので、玄関までは追ってはこない。しかしそうなった場合は、走って玄関のドアを開けることになる。
 ドアを開けると正面の壁に何組かのスキーが立て掛けてあった。今から四十年も前、この家族はかなりモダンだったのだ。
 すぐに右に二階へ上る階段、進むと右側に掘り炬燵を設えた茶の間、左には廊下をグルリと囲んで広間があった。廊下は庭に面していて、その外の一角に先ほどの白い犬が犬小屋とともに鎮座していてこの家を守っていた。
 庭は起伏に富んでいて、都内の住宅としてはかなり贅沢。子どもの遊び場にはうってつけだ。ここでいったどれくらいの時間を過ごしただろうか。
 庭の隅には直径一メートルほどの貯水槽があって、いつも暗い水の中に赤い金魚が泳いていた。その近くになぜか十キロのバーベルが置いてあり、やっとの思いで持ち上げていた。
 廊下に面した庭の中ほどには、石でできた狸がいて、ずっと広間で遊んでいた私に視線を送っていた。しかしこの庭はさらに奥へと続いていた。 しかし、いったんまた家の中に戻ることにしよう。