メビウスの夜 その三

 そして、ついにblacksheepの怒涛の演奏の始まり始まり。
 ピアノのスガダイローさんは意外と終始笑顔、トロンホーンの後藤篤さんは意外と無表情、このお二人が夏向きな服装なのに対してバリトン・サックスの吉田隆一さんは、ビシッとタイトなスーツで完全武装し、まるでベネディクト・カンバーバッチが感電したみたいなオーラ(個人的感想です)を発しながら、SF的大宇宙が新宿の小空間で展開されていくのではあった。
 しかしピアノとトロンボーン、そしてバリトン・サックスの三つの楽器だけでどうしてこれだけの音を渦を作り出せるのだろうか。ジャズどシロウト(聴くけど)の私は、ともするとビアノ以外のトロンボーンバリトン・サックスは、誤解を恐れずにいえば表現が難しい楽器なのではないか、そしてそれゆえにいわゆる有名プレーヤーも少ないのではないのか、と思っていた。しかしそんなトンチンカンキンな思惑は荷物をまとめて、遠い世界に旅に出る、のだった。
 このトリオの紡ぎだす、いや構築する巨大な立体体は、ステージのすぐ近くにあって、変幻自在にその姿を変化させる。そしてそれは聴衆をSF的魔界へとドンドン誘っていくのである。