メビウスの夜 その八

 そしてメビウスな夜は続く。
 第三部に入り、ゾンビかと思った使徒とか、いつのまにかの実存としての羊子ちゃんとか、ノイズ中村さんのセミ取り少年とかが入り乱れての、新宿ピットインはパフォーマンス空間ともなっていく。セミ取り少年は、すでにユーストでその実力を拝見していたので、驚きが削がれていたのはとても残念だが、致し方ない。いつかドジョウ掬いオジサンとしてでもドジョウ、じゃなかった登場していただきたい。
 しかし白眉は、やはり吉田さんの「翼をください」である。五十過ぎにはリアル体験(ちなみに私は赤い鳥のコンサートを草加文化会館でみている)のこの曲と歌は、リバイバルでヒットしたせいなのか、いろんなところで聴く機会があるが、まさか新宿ピットインでその翼が放たれるとは思わなんだ。
 吉田さんはここで一流のバリトン吹きから、一流のパフォーマーとなって爆裂し続け、会場を愛と感動と爆笑の渦に巻き込むのである。それをトロンボーンとビアノが激しく噴き上げ、周囲に西島さんを含む盆踊り隊が、まさに祝祭の場であることを証明するかごとく、踊り続ける。
 それはすでにジャズという概念に留まることはない。ジャズとして語ることも許されない。まさに啓示的な場として、観客に、そして夜に溶けていくのだった。