五反田今昔ストーリー その一

 昨日は母の命日。彼女がいなくなって、三度目の秋である。
 ツレといっしょに、五反田の寺にお参りする。とうぜんそこはウチの菩提寺なのだが、個人的にもどうしたわけか五反田縁深い。
 父や母の若い頃の職場が近くだったせいで、その界隈でよく食事をしたり、飲んだりしていたという。とある飲み屋、確か屋号は「力士」だったと思うが、その店のテーブルの上で、やっと歩くようになった私が踊ったことがあると聞いたことがあるので、学生の頃に探したこがある。そして実際、ちゃんと店は存在していた。
 大きな坂道を上ったところに大学があったので、友人と飲むとなると、五反田だったことが多い。学校はやや高いところにあり、学生たちはそこを下って、品川か五反田か、あるいは目黒に散って、飲みに繰り出すことになる。
 寺の横の坂道にへばりつくように建っていた、「大力」という飲み屋にも何回も通って、お銚子を何本も転がしたが、そんな店もいつのまにか無くなっている。おや、二軒とも「力」がつく。
 よって当時の五反田といえば、夕暮れ時から深夜に至るそこということになる。そんな夜の五反田とは学校を卒業することで、縁が切れるかと思ったが、実はそうはいかなかったのである。

PS:ネットで調べたところ、「力士」は以前の場所に同じ名前で営業中であった。ただし、店構えは新しくなっている。「大力」はその場所自体が大力ビルになっている。ただし店が近くに移転している様子はない。