五反田今昔ストーリー その十一

 新開地の楽しきひと時はあっという間に、煉獄の谷間と化していた。
 日頃、飲み歩いてはいたが、その財布の健康状態から、飲み慣れることはなかった先輩諸氏だから、沸きいずる泉のように、無尽蔵に日本酒を注がれても、消費する限界はすぐに到来したのである。
 しかしさすがに天下に名高い学士さまたち、この困難に直面しても、その朦朧となった脳髄を駆使して、みずから招いた逆境から逃れる方便を探し出したのだった。
 敵、いや天使、改め一升瓶おじさんが座っているのは、カウンターの向こう側であり、ふとコップを手元から下に持っていけば、彼にそのありようを確認するすべはないことがわかった。
 かくして、彼らはなみなみと注がれたコップ酒を、ちょっと口につけては、コンクリートの床にゆっくりと飲ませるのだった。しかし、なんともったいないことよ。
 それは静かに川となって流れ、やがては養老の滝となって、孝行息子に幸をもたらすことだろう。そういえば、通りの向こう側には「養老の滝」があったよな。
 閑話休題
  ドモドモ、チビリ、ドバドバと、そんなナイスアイディアで困難をかわしていた先輩諸氏ではあったが、一人だけ、姑息な方策を無視して、ただグビグビと注がれる酒をあおり続けていた御仁がいたのだった。