五反田今昔ストーリー その十二

 まもなく、周囲の諸先輩はコップ酒消費機械と化した同輩の異変に気付くのである。やがてその御仁は石像のように動かなくなり、視線も固まっていく。ただ口を開けて、注がれる日本酒を流し込むルーティン動作を繰り返すだけなのだ。
 いつしかその顔自体も石像のような色に変化し、そしてついにはまさに石像のごとく、コンクリートの養老の川が流れるの床にドサリと倒れたのであった。
 それは酔いつぶれて崩れ落ちるさまというよりも、一つの存在自体が崩壊するさまのようであり、それぞれいいかげんに酩酊している他の先輩諸氏にも、それが大いなる全般的危機そのものであることを理解したのである。
 その状況に、さらにトンデモナイことが重なる。彼は小物の商いでもこれから始めようとしたのか、そのコンクリートに吐しゃ物を広げたのだった。
 しかし危機はそれでは収まらない。広げたものに赤い液体が混じっていて、口からもタラりと同様のものが落ちていたのだ。
 ここに至って、先輩諸氏は小物を避けつつも、あるものは肩を叩き、あるものは背中を上体を起こそうとし、あるものは電話ボックスへと走ったのだ。もちろん携帯電話何ぞなかった時代てある。もしかすると店にも電話はなかったかもしれない。
 なぜ、電話に走ったか、もちろん救急車を呼ぶためである。
 その五分後、五反田は新開地の路地裏に、夜の静寂を引き裂くようなサイレンが鳴り響いたのだった。