五反田今昔ストーリー その十六

 Kの両親と先輩諸氏とは一度もあったことはなかった。
 だからKの両親も小汚い若者たちが数人たむろしていても、それが自分の息子の友人たちと判断することを躊躇していたらしい。
 そんなあいまいな関係のままに、両者の距離が短くなっていく。
(いろいろとケアしたんだから、感謝の言葉の一つもあるかな、まあ帰りのタクシー代ぐらいはほしいなぁ)
 とHは内心ではそう思っていた。しかし、まずはKの容体である。それにふさわしい顔をしていなくてはならない。
 と、近づく父親はHが抱えていたコートに気づくのだ。それこそ、まさに最愛の息子の大事なコートではないか。それをHはまさに彼の遺品のように抱きかかえているのである。